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ささくれた名盤などについてのメモ他

Danç-Êh-Sá

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Danç-Êh-Sá / Tom Zé (2006)

何年か前、わざわざ東海道線で30分ほどかけて平塚まで赴き、毎週末恵比寿でフラメンコを習っているという謎の胡散臭いババアの話を聞く、という仕事をしたことがありました。
ババアにはなぜか妙に気に入られ、2時間ほどピアノを弾かれて一方的に半生を語られた挙句、「あなたの歯並びは綺麗ね。あなたの歯並びは、いつかきっと誰かを幸せにするわ。」と言われたのです。
それからというもの、極力、歯を剥き出しにして会話することを心がけて生きています。何しろババアが言うことには、僕はメシアであり、歯並び界の釈迦ですから。
去り際、ババアが寂しそうな表情で、「あなた20代後半くらいでしょう?今度フラメンコの先生を紹介するわ。綺麗な女性よ?」と言いながら売り物のサングラスを供与してくれたくらいなので、恐らくババアの言うことは間違いないと思うのです。

あれから数年経ちますが、今のところ他人から「あなたの歯並びに救われた」などと言われたことなど一度もないので、今後奇跡的に出会うことになるのか、もしくは、本当はそう思っているものの言いだせないでいる方がいるのかもしれません。
または、歯並びに人生を救われるような時代は実はもうすでに終わってしまっており、時代に求められることは今後ありえないのかもしれません。
いずれにせよ、僕は道化のように歯を剥き出しにして生きる他ないのです。ババアとの約束ですから。

ちなみに、その後僕の担当が変わってしまい、無表情で電卓を叩き続ける仕事になってしまったので、フラメンコの先生を紹介されることはありませんでした。



さて、無表情かつ歯を剥き出しにして電卓を叩くことに何の意味も見出せない日々を送っているわけですが、そこに意味を見出したとして、その意味を見出す行為自体に何の意味があるのでしょうか。

(悟り)

そういう気概で言えば、トンゼ。今年で80歳になる御大は、明らかに悟りを開きつつあります。
カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ムタンチスといったトロピカリア、MPBのオリジネイター達の影に隠れ、トンゼは全身の気孔という気孔を全開にしてブラジル音楽界の裏街道を掘り進み、老齢にして奇行を極めつつあります。
近年、特に70歳前後になって以降の死に急ぐかのような多作ぶりがすぎるので全てを追いきれていないものの、激烈にアッパーで気狂いな変則変態サンバは、トンゼ本人が棺桶に近づくほどその度合いを増して来ているのです。
特に、2006年にひっそりとリリースされたこのDanç-Êh-Sá は、近作のうちでもかなり陰気に捻れまくった音であり、全7曲というEP並みのボリュームながら、その分濃すぎる世界が展開されます。もはや涅槃です。



日本盤の帯によると、『ミュージカル調で、トンゼ自身もあまり歌わない』ということだったので、正直あまり期待せずに聴いてみたものの、トンゼは精神病棟の患者のごとく奇声を上げまくってるし、なにしろボーカルワークを抑えた分のエネルギーが曲のアレンジに向かった結果、ミュージカル調が捻れに捻れて着地失敗したかのような気色の悪い音に落ち着いていて、非常に衝撃的でした。
そもそも、トンゼはボーカルワークよりもむしろ曲の構成のネジが外れているタイプなので、トンゼ自身が歌うか否かはそこまで魅力を損なう要素ではないのでしょう。

このアルバムがリリースされた頃といえば、あまつさえメディアに踊らされやすい僕などはもう踊りに踊っており、白目を剥いて息も絶え絶えに涎を垂れ流しながら「2+2=5かっけー、There Thereすげえ」と馬鹿の一つ覚えのように連呼していたような馬鹿でした。
トンゼがこんな『変態ここに極まりけり』な傑作を生み出していたのに、インターネット環境になかった僕にはそんな情報すら届かず、諸誌でも見事にスルーされ話題に上ることもなく、2+2などという簡単な足し算すら間違える失態。
今さらながら後悔しきりです。


あの頃にトンゼを聴いていれば、もしくは・・・。
バタフライエフェクトのように、小さな影響が積み重なって、ババアからフラメンコの先生を紹介されていたかもしれません。


そんなくだらないことを毎日考えながらも、僕は今日も無表情で電卓を叩くのです。
歯を剥き出しにして。
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