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ささくれた名盤などについてのメモ他

Ode To J.Smith

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Ode To J.Smith / Travis (2008)

なんとなく、「媚びるより媚びられたい」と思って私は今日まで生きてみました。
ですから、いつか宇都宮動物園に行かねばならないと思っていました。そしたら、この間たまたま宇都宮に行くチャンスが巡ってきましたので、そういうことで宇都宮動物園に行ってみたんです。ついに。

宇都宮動物園といえば、全国でも珍しい私営の動物園。かつ、ほとんど全ての草食動物に自由に餌を与えることができるという奇跡的なエンターテイメントスポットであり、同時に廃業寸前の危うさも保つという絶妙なバランスの上で運営されています。
通常、動物園の展示動物といえば、私たち来園者には全く興味を示さず、気まぐれに丸太を登ってみたり、はたまた降りてみたり、リンゴをかじってみたり、リンゴをかじりながら丸太に登ってみたりするわけで、興味の対象は餌を与えてくれる飼育員のみに向けられています。
私たち来園者からすると、奴らはあくまでも檻の中の展示動物にすぎず、普段見ることができない動物を漠然と眺めるという非日常感に覆い隠された狭い社会内でのルーチンワーク的な日常感を一方的に味わわされるわけで、その価値観の隙間、価値観の真空地帯が私たちを傍観者の立場に追い込み、ついには心に漠然とした一抹の寂しさを感じさせることになります。漠然とした一抹の寂しさというものは、少年を犯罪に駆り立てる一つの要因になるわけですので、そういう意味でも動物園側は漠然とではなく具体的な対策を検討する必要があると言えるでしょう。

そういった見方からいうと、宇都宮動物園の動物(厳密には草食動物)たちは、一心不乱に客に媚びます。キリンも象もバーバリーシープも、まるで禁断症状が出た麻薬中毒者のごとく客に媚びまくります。そして、ガキは餌(ニンジンやリンゴのぶつ切り)を奴らに振りかぶって投げます。本気で投げつけます。動物(厳密には草食動物)はさらに媚びます。ガキはさらに腕よもげろと言わんばかりに本気で投げつけます※1。もっと言えばガキは、自らニンジンやリンゴをかじることで動物(厳密には草食動物)を焦らすこともできるのです。
つまり、ここに媚びる、媚びられるの循環社会が形成されます。

上記のように、動物園に対し、展示動物を漠然と眺めた後に心に一抹の寂しさを味わって帰宅するもの、という価値観が前提にあるのならば、宇都宮動物園のこの特殊な展示形態こそ非日常感そのものであり、来園者が能動的に餌を与えられることにより日常感を徹底的に排除することに成功したといえるでしょう※2
これでもう栃木県のガキが非行に走る心配はありませんね。よかったね、栃木県のガキ。

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(一方、肉食動物は主にやさぐれています)


さ、栃木県のガキを非行から救ったところで、問題の例のアルバムです。

Ode To J.Smithは、デビュー以後いつまで経っても隠さず醸す真っすぐな煮え切らなさが魅力のイギリスのバンドTravisが2008年に発表した6thアルバムであり、それまでの演歌寄りUKロックのスタイルをかなぐり捨て、凡庸なギターロックに変貌してしまったことでファンからは「どうでもいい」と見なされている名盤です。
Travisといえば、いかにもUKロック然とした優等生的なイメージがどうしても拭えず、社会の枠組みから外れてしまった輩やそもそも社会の枠組み自体に疑問を持ってしまった哲学的劣等生からはクラス委員的なベビーフェイスとして忌み嫌われているわけですが、それでも演歌寄りUKロックの旗手として演歌寄りUKロックファンからの根強い人気がありました。

しかし、このアルバムにおいては、前述のとおりアルバムを通して荒々しいギターロック調の曲ばかりであり、何度アルバムを聴いても曲の聴き分けが難しいという非常に高度なアレンジ手法が大胆に取り入れられています。

そのような敷居の高い構成のうち、特筆して聴くべきは以下の1曲です。


ギターロックに突如としてスライディングで滑りこんでくる聖歌隊。
聖歌隊を滑り込ませるとなぜだかサイケロックになる、という偶発的なアレンジ自体は、サイケロック史において時たま用いられてきた手法ですが、今までサイケのサの字も見せなかったTravisが、どうしたって保守的になりがちなファン心理を欺いてまで突然こんな奇矯なロックオペラ※3を演奏しだしたことに価値があります。

媚びる、媚びられるの循環社会の中で優位性を保つことが目的の産業ロック界にあって、このような向こう見ずなブレイクスルーを決め込む意気。そこにこそ、このアルバムを聴く価値があるんだと思いますし、だからこそ今日も僕は無表情でこのアルバムをリピート再生します。


おわり


※1 作新学院が栃木県代表の常連として甲子園に出場する理由がここにあります。
※2 宇都宮動物園に何度も通い、これが動物園の常識であると考えるようになってしまうと来園者の非日常感は加速度的に薄れていきます。宇都宮動物園は、非日常感を継続的に提供するための施策を考えねばならず、そこに現代社会が抱える闇があるといえるでしょう。
※3 この曲を最初に聴いたときになんとなく思い浮かべたのはこれです↓

※4 念のために言い訳しますが、僕は高校時代からかれこれ10年以上Travisを聴き続けている筋金入りのファンです。他の筋金入りのファンの方、気分を害されたのであれば謝ります。ごめんなさい。ちなみに、一番好きなアルバムは4thです。
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